概算力

「ざっくりいくらですか?」
「概算でいいので教えてください。」


今日もそこかしこで繰り出されるこの台詞。聞く方は簡単だが答える方は大変だ。
ざっくりという響きにだまされて適当に答えてはいけない。本見積もりとかけ離れた数字を口走ると後で自分の首をしめる。

概算力を語るに際して、最近経験した概算にまつわる酷い話をさせて欲しい。

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先月、長年乗ってきた愛車を手放した。8年間、8万キロを超える距離を走ったが、そこは天下のトヨタ車。まだまだ走る。次の乗り手に出会ってまだまだ走って欲しいと願い、中古車屋に売却することにした。

ネットで検索して「トヨタの買い取りなら◯◯で!」という広告が目に止まった大手中古車買い取りチェーン店に持ち込んだ。5月という時期が災いしたのか、電話予約時に手早く終わらせてとお願いしたにも関わらず、接客担当は新人君。

新人君

必要書類を提示して査定をお願いしたところ、しばらく時間がかかるので、当社の査定の仕方について説明させてくださいと言われ接客がはじまる。

新人「森中さん、どういう風に査定価格が決まるかご存知ですか?」
森中「すみません。興味ありません。」
新人「それでは、当社のシステムについて説明させて頂きます。」
森中「・・・そ、そうですか。。」

マニュアルの恐ろしさたるや。

お言葉を返しそうなところを踏みとどまり、新人君の研修的な感じで付き合ってあげることにした。

今実際に販売されている森中さんのと同じ年式のお車ですと・・・と、おもむろに中古車情報の1ページを見せながら新人君は言う。

販売価格のところには70万円と書かれてあった。
その後、モニターに映し出した図を使って査定金額のシミュレーションをはじめる。

新人「森中さん、中古車屋さんはどのくらいの利益を取ると思いますか?」
森中「すみません。興味ありません。」
新人「そう。20%くらいなんです。」(と言って数字を入力する。)
森中「・・・す、すごいですね(あなたが)」

そんな調子でどんどん図が埋まっていった。

新人「どうでしょうこの金額は?」

シミュレーションシート(埋)

正直10万円で引き取ってもらえれば十分だと思っていたので、34万という金額には驚いた。しかし、ここでニコニコしては示しがつかない。冷静にこう言い放った。

森中「シミュレーションはさておき、もうそろそろ査定終わってないですかね?」
新人「あ、出てると思います。それでは今から確認してきますね!」

バタバタと接客スペースから事務所の方へと戻って行く。


ほどなく新人君が戻ってくる。査定額が記された紙を持って。
彼は紙をテーブルの上に出した。

新人「森中さんのお車の査定額です。どうでしょうこの金額は?」

そこに記載されていた金額はなんと3万円だった。
さすがに声を失う。34万は無いにしてもまさかの消費税レベル。

森中「どうでしょうって?普通にショックですよ?」
新人「そうですよねぇ。市場でなかなか売値がつかないとのことで。」
森中「先程のシミュレーションは市場価格ベースでは?」
新人「そうですよねぇ。僕も納得いかないので本部と交渉してきてもいいですか?」
森中「まさかそれを聞きに来たんですか?」
新人「少しお時間をください。交渉してきます!」

マニュアルの恐ろしさたるや。

概算見積もりを大外しした上で、こんな駆け引きを打ちにくることに脱帽。

この後の不毛なやりとりは割愛するが、最終的には、その本部との交渉とやらの後に出してきた10万円という提示に合意して商談は終了する。
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今回は元々こちらに10万円くらいという読みがあったのと、そもそも車を持って帰る気がなかったからいいものの、普通なら確実に不成立で終わる商談だった。下手すりゃ説教のひとつもしてたかも。

概算でゼロひとつ違う数字を出すなど最悪である。自信がないなら一旦持ち帰る方が無難。(新人君はこっちが頼んでもないのに出してきた特殊ケースだが)

だからと言って概算を恐れる必要はない。その場で迅速かつ正確に概算見積もりを出すことができれば、大きな信頼を勝ち取れることもまた事実。持論だが、特にディレクターは概算力を磨くべきだ。今回は新人君の話が長くなったのでその理由は次の機会で書くことにする。